餌が付いていなくても釣れますか?・・・釣りの本質
湘南、茅ヶ崎。活動休止したサザン。平島群礁。クロダイ(チヌ)釣りのメッカ。それも50センチ以上の大物釣り場。ちなみに、サザンの歌に出てくる烏帽子岩は、茅ヶ崎の沖にあり、メジナ(グレ)他で有名な磯。
20年ほど前に横浜の保土ヶ谷に住んでいた頃、茅ヶ崎の平島に何度かクロダイ釣りに行ったことがあります。保土ヶ谷から、横須賀線で戸塚まで行き、東海道線に乗り換えて茅ヶ崎駅まで行っていました。駅からは歩いたり、時にはタクシーで港まで行っていました。この平島群礁は大物クロダイのメッカで、50センチオーバー、3キロオーバーが釣れることで有名な場所でした。釣り方も今思えば変わっており、さなぎのミンチをコマセにし、付け餌はなぜかオキアミでした。確かコマセはオキアミ禁止だったと思います。
ある日、きわの大島という磯に上がりました。渡礁の前に渡船屋のおかみさんが、磯の地図を出してきて、「昨日ここで釣れているから、何があってもここで粘りなさい。動いちゃだめよ」と赤鉛筆で印を付けてアドバイスしてくれました。昨日釣れたからといって、今日も釣れるか?半信半疑ながら、他にあてもないので、言われたとおりの場所でやっていました。
私の側にも数人の釣り師がいて、真剣な表情で釣りをしています。その中の一人が、ちょっと変わっているのです。竿を振る速さがとても速いのです。よく見ると、針に付けたオキアミが、投入のたびに針から外れて吹き飛んでしまっています。しかし、声も掛けづらいくらい真剣に浮きを見つめています。
迷いました。教えてあげるべきなのかどうか。この方は針からオキアミが外れているとは思っておらず、クロダイが食いつくのは今か今かと浮きを凝視しているのです。どうするべきなのでしょう。
クロダイ師は釣り師の中の釣り師。研究熱心で、プライドが高く、負けず嫌いで、あの手この手で何とかクロダイを手にしようと必死です。この方もそうでしょう。じっと浮きを見つめている横顔はただ者には見えません。・・・でも浮きの下の針にはオキアミはなく、間違いでも起きない限りクロダイは釣れないのです。
結局、私は何も言いませんでした。自分の釣りに集中しました。
釣りの本質は、イメージの遊び、連続する期待感、釣れたかどうかは二の次、釣れることを期待して浮きを見ている、その瞬間こそが釣り師の幸せでしょう。その方は釣れると期待し続けているのであり、余計な指摘をする必要はないでしょう。
もし、私が「それじゃあ釣れませんよ。だって、オキアミが吹き飛んでいますから。もう少し竿をゆっくり振ったほうがいいですよ。」などと言おうものなら、どうなっていたでしょう。基本的なミスを他人に指摘され、気持ちいい幻想の世界から現実に引き戻され、「教えてくれてありがとう」と素直に言う気になれたでしょうか。
20年近く経った今、やはりあの時何も言わなくてよかったんだと思っています。あの人は釣れなくても釣りを楽しむことができ、それでよかったんだと確信を持っています。
私は、この日午後2時の終了間際、バケツに残っていたコマセを一度に全部撒いたのが効いたのか、42センチのクロダイを釣る事ができました。最後の一投で釣れた忘れられない思い出の一つです。
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